事業所得と給与所得


 税務では事業所得と給与所得の区分がよく問題になります。この区分は税法の定義や判例や裁決で考え方が示されていますが、税務の実務ではグレーゾーンの場合が多いのが実情です。

1.事業所得とされるか給与所得では何が異なるか
 事業所得なのか給与所得なのかで税務の取扱が異なるのは次の3点です。
(1)確定申告で計上する経費に違いがでてきます
 ・事業なら必要な経費を差し引いた額が所得です。
 ・給与なら給与所得控除額を差し引いた額が所得となります。
どちらが有利かは一概にはいえません
(2)消費税の課税区分が異なります
 ・事業所得は課税対象の取引になります。
 ・給与所得は消費税には影響しません。
(3)源泉所得税の額が違います
 ・事業所得の場合は一定の「報酬」について源泉が必要になります。
  税率は10%が一般的です。
 ・給与所得の場合は「給与所得の源泉徴収税額表」によります。

2.事業所得と給与所得はどのように判断するか
(1)事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業
   その他の事業から生ずる所得です。
 これだけでは判断しづらいのですが次のような要件を満たしているものが事業と
されています。
●自己責任で行われている
 (出来高制など報酬が成果で定められている、必要な費用は自分で負担している)
●営利性があること
●反復継続していること
(2)給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得です。
 具体的には下記の要件を満たしている場合には給与所得とされています。
●雇用契約が存在する(これは必ずしも書面に限りません)
●使用者の指揮命令に服する
●使用者から空間的および時間的な拘束を受ける
●職務上の費用が使用者の負担となる

3.実務上の判断基準など
 最初に触れた通り実際にはグレーゾーンが多く、以下のような理由から税法や通達の解釈で所得種類が「事業」か「給与」かで争いが起こるのが多いのが実情です。
(1)源泉徴収をしたくない(されたくない)
 支払者側としては計算や手続が面倒であることから源泉徴収をしたがりません。また、受け取る側も手取が減るので源泉徴収されることを嫌います。このような安易な理由から給与所得を事業所得として処理することがあります。
(2)支払いを受けた人が申告しないことがある
 税務署は課税逃れを防ぐために、給与所得として扱い源泉徴収をするよう促すのが一般的です。

 現在の基本通達では「事業」と「給与」の判断基準を以下のように定めています
(1)他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるか
(2)報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
(3)作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く)を受けるかどうか。
(4)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるか。
(5)材料又は用具等を報酬の支払者から供与されているかどうか。
 
4.判断に迷う場合はどうしたらよいか
 具体的な判断基準を補足すると下記の通りです
・指揮監督 業務について完全な指揮監督を受けるか否か。外注者は自己の責任と判断で業務遂行します。
・他人との代替 通常、外注であれば、他人との代替が容易であるはず。
・日当計算 外注は本来、出来高払いのはずです(ただし職種によっては例外があります)・賞与支給の有無 外注者に対する賞与支給はあり得ません。
・道具等の負担 雇用の場合は会社負担で自己で所有しません。
        請負の場合は、通常は自己負担です。
・請求書の有無 請負の場合は、請求書を発行する場合が多いと思います。
・福利厚生  社宅の提供、通勤手当支給、残業食事負担がある場合は雇用契約です。

5.その他
 次のような通達や事例があります
(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料等)
28−9の2 医師又は歯科医師が、地方公共団体等の開設する救急センター、病院等において休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は、給与等に該当する。(昭55直所3−19、直法6−8追加)

(派遣医が支給を受ける診療の報酬等)
28−9の3 大学病院の医局等若しくは教授等又は医療機関のあっせんにより派遣された医師又は歯科医師が、派遣先の医療機関において診療等を行うことにより当該派遣先の医療機関から支給を受ける報酬等は、給与等に該当する。(昭55直所3−19、直法6−8、追加、平19課法9−16、課個2−27、課審4−40改正)
(注)1 大学病院の医局等とは、大学の医学部、歯学部若しくはその附属病院又はこれらの教室若しくは医局をいう。
 2 教授等とは、大学病院の医局等の教授、准教授、講師、助教又は助手をいう。

 その他:弁護士の顧問料は給与所得ではなく事業所得とされた事例

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